R31号線からR385号線に入ってCampbellの町を目指す。運転しながら昼食のバーガーを食べた。R385号線は途中からダートロードになった。標識もずっとないので、道に迷ったのかと思うほどだ。道の両側はPostmasburgから続く乾燥しきった大地と枯れた草木ばかりの風景。何度か索敵するも、ゆーふぉはおろか、多肉植物の姿も全く見当たらない。


R385号線の景色1


R385号線の景色2


R385号線の景色3


E.sp.(不明種)


R385号線にて
遠征のトップページの画像候補だったお気に入りの一葉


R385号線の牧場


R385号線の景色4

 1時間走り続け、周囲の景色が少し変わったのでCampbellの町を見下ろす丘の斜面で索敵する。雨が降ったら水が流れそうな小石が多い場所を丹念に探す。するとメセンとアボニアを見つけることができた。今日は朝から多肉植物らしいものはアロエしか見ていないので、ゆーふぉではないけれど、昨日までうんざりしていたメセンでも嬉しく思える。


R385号線の丘からCampbellの町を望む


メセン 名無し6−2−1


左の画像の同種別株


アボニア sp.


メセンやアボニアが生えていた丘

 13時半、30℃。Campbellに到着した。E.inornataを見つけられずにここまで来てしまった。Douglasまでは28kmと標識が出ている。

 Campbellの町のすぐ南に岩の丘があったので索敵してみる。30mほど登ってアロエやバルブを見つけたが、ゆーふぉは皆無だった。


アロエ sp.1


アロエ sp.2


アロエ sp.2の花をアップで


アロエ sp.3


R385号線の景色5

 14時、Douglasの町を目の前にして車の右前輪がパンクしてしまった。走行中にガタガタするのでもしやと思って停車したら、やっぱりそうだった。日本ではまずタイヤ交換なんかしないから作業に慣れてないし、車載工具を探すのに手間取ったので、スペアタイヤに交換する作業に50分も費やしてしまった。車高が高い分、ジャッキアップも大変だ。気温33℃、雲ひとつない強烈な太陽の下での作業は気力・体力ともに奪われる。少し風があるのが唯一の救いだ。


タイヤ交換の作業中に

 15時、Douglasに到着。この町もそのまま素通り。そのままR385号線でHopetownを目指す。道は相変わらずのダートロードだ。パンクしないように70km/hに速度を落として走行する。


Douglasのスラム街

 16時、32℃。Douglasから40km弱走ったポイントで索敵すると、E.mauritanica(蒼竜)と思われる緑枝類のゆーふぉが少しあった。しかし、他の多肉植物はなし。


R385号線の道路横の様子


名無し6−2−2


R385号線の景色6

 16時50分、32℃。走行中に車がガタガタするので、まさかと思ったらそのまさかだった。今度は左後輪がパンク。おい、マジかよぉ〜!!!パンクしないようにゆっくり走ってきたのに。。。もうスペアタイヤもねーよ。Douglasでタイヤを調達するべきだったと後悔したが、後悔先に立たず。それにしてもわずか3時間弱で2度もパンクするなんて不運と踊っちまったとしか思えない。



 どうすればいいか考えるが、既にスペアタイヤを使用している今、できることは何もない。となればするべきことはただ1つ。このままHopetownまで・・・

「行っちゃうぞ! バカヤロー!!」

 そのまま3kmほど走り、やってきた対向車を止めて町までの距離を訊いてみるとHopetownまであと5kmとのこと。町の近くで良かった。たしかに遠くに町が見える。「禍転じて福と成す」の諺があるのでタコ物でも見つからないかと周囲を索敵したが、何も見つからず。現実はそんなに甘いもんじゃなかった。車を置いて歩いて行くのは心配だし、他にできることもないのでパンクしたタイヤのまま町まで走ることにした。

 Hopetownのすぐ北でR385号線はR12号線に合流し、そこからは舗装道路になった。ハザードランプを点けて路肩をゆっくり走る。パンクしたタイヤがベコベコと大きな音をたてるので、道の両側を歩いている通行人がみんなこちらを見る。もう晒し者状態。オレンジ川に架かる橋を越えて進むと、町の手前の斜面にガソリンスタンド(以下「GS」と表記)があったので迷わず入った。しかし、タイヤは取り扱っていないとのこと。店員が町中にもう1軒GSがあり、そこで買えると教えてくれた。教えてもらったとおり町に入ってすぐに右折して直進すると、もう1軒GSがあった。しかし、ここでもタイヤは取り扱っていなかった。がっかりしたが、町の真ん中を通るR12号線の反対側にタイヤ店があると教えてくれた。GSの前の道を戻ると、なるほどR12号線の反対側にブリジストンののぼりがはためいていた。さきほどのGSから500mほどと近い。敷地の入口の看板には「全てのタイヤのサイズがある」と書かれている。これは助かった。

 敷地に入ると太った白人のオーナーが出てきて、パンクしたタイヤを見て「ありゃりゃ。これはひどいな。」みたいなことを言った。パンクしてから数kmも走ってきたので、タイヤはもうボロボロだ。しかし、オーナーはタイヤのサイズを見て一言。「このサイズのタイヤはうちにはないよ。」マジかいっ!?愕然とした。どうすりゃいーんだ。彼は俺にこう提案した。電車に乗って隣町のKimberleyに行ってタイヤを買って戻ってきな、と。簡単に言うが、隣町といっても100kmほども離れているし、電車の運行状況や乗り方もわからないし、何より重くて大きなタイヤを自分1人で2本も持ってこなければならないのか。時間はもう18時を過ぎている。朝から全く戦果がなくて気落ちしているし、暑い中で動き回って疲労もピーク、おまけに睡眠不足ときているのでどうしたら一番良いのか考えるも頭が回らない。ただもう呆然と車の横に突っ立ってタバコを吸っていた。とりあえず今日はこのままここに車を置かせてもらって、オーナーに頼んで町の安いホテルにでも連れて行ってもらおうと考えをまとめ、明日はタイヤの入手で1日潰れるなと思った。その間に黒人従業員が車からパンクした左後輪を外し、ホイールからタイヤを外す作業を開始。オーナーは俺の後に来た客の車のタイヤに空気を入れる作業を始め、もう1人いたオーナーの親族か友達と思われる白人男性は車でどこかに出かけてしまった。俺はすることもなく、タバコを吸いながら彼らの作業をぼんやりと見ていた。空気入れの作業を終えたオーナーは2人がかりでタイヤ外しの作業をしている黒人従業員を手伝い始めた。2mはあろうかという長い金属の器具を使ってホイールからタイヤを削り取るように外そうとしている。パンクしてから数kmも走ったので、ボロボロになったタイヤがホイールからなかなか外れない。もしかしたらホイールも変形して駄目になってしまったのか。もしそうならタイヤ2本ならまだしも、ホイールまで弁償することになったら出費がデカいなぁと思った。やがて外出から戻ってきたもう1人の白人男性も加わって4人で一生懸命作業をしてくれている。手伝いたい気持ちもあるけど、明らかに邪魔になりそうだったので傍観していた。4人で作業を始めてから10分ほど経ってようやくタイヤが外れた。すると戻ってきた白人男性が持ってきた中古タイヤを取り付け始めた。あれっ!?このサイズのタイヤはないんじゃなかったっけ?そうか、どこからか調達してきてくれたんだ。そこからの作業は早く、タイヤをホイールに嵌め、手早く車に取り付けて作業完了。良かったぁ〜。とりあえずこれで車は走る。それに明日電車でKimberleyに行って重いタイヤを買って戻らずに済む。で、オーナーにいくら払えばいいか尋ねた。その答えは・・・


「金なんかいらねえよ。良い旅をな!」




 俺は嬉しくて胸がいっぱいになり、涙が出そうになった。タイヤ代と修理代が浮いたからなんてちゃちな理由じゃない。在庫がないものを何とか調達してくれ、汗だくになってホイールからタイヤを外し、タイヤ販売が生業であるにもかかわらず、そう言ってくれたからだ。明らかに一見さんの俺なんかに無料でサービスしても彼らにはこの先何のメリットもない。それにその気になれば困っている俺の足元を見てぼったくることだってできるのに。嬉しさと同時に、「太っている」→「良い物を食べている」→「お金持ち」→「がめつい」→「ぼったくられるかも」と思っていた自分が心底恥ずかしかった。でも、ほとほと困り果てていた俺にはまさに地獄で仏に会った感じだった。思わず「Thank you very much!!!」と言いながら4人全員と全力で握手。俺も何か感謝の気持ちを示したい。お代はいらないと言われたのにお金を渡すのは野暮である。何か彼らに役立つ物はないかと考えて、みんなが手を真っ黒にして素手で作業していたのを思い出し、日本から持ってきた作業用の手袋をプレゼントした。先ほどのタイヤ交換の時に1度だけ使ったほぼ新品だ。再度礼を言って敷地を出る時、こんな優しい人たちにはいつまでも元気でいて欲しいなと思っていたら、Vanrynsdorpで買ったトマトがまだ2パック6個あるのを思い出した。車を止めて小走りで戻り、こちらに向かってきた黒人従業員に全て手渡す。「あなた達とあなた達の家族の健康のために」と言って。自分でも後で振り返ると「お礼にトマトかいっ!」とツッコミを入れたくなるが、彼らはもちろん、彼らが大切にしている家族も健康でいて欲しいという一心だった。トマトを1回食べたくらいでずっと健康でいられるわけはないのだが、この時に俺が彼らの健康に対してできる最大の貢献だった。それに野菜は入手しづらいので、少しでも彼らの食卓が賑やかになればと思った。

 そんなこんなでパンク修理もなんとかなったので、今度は宿探し。R12号線の反対側に再び戻り、さっきのGSの従業員にまた尋ねた。教えてくれた方向に行ったが、見つからない。歩いていた黒人の女の子3人組に訊いても見つけられず、もう1人黒人男性に訊いてようやく見つけることができた。

 さっそく中へ入ってフロントのおばちゃんに値段を訊くと、1泊270ランド(約2700円)だと言うので即決する。車をホテルのバックヤードに駐車させてもらい、部屋に案内された。風呂があるのが嬉しい。フロントで宿代を支払った後、おばちゃんお勧めのレストランで夕食を取るために徒歩で外出した。このホテルを探しながら町中を巡っている時に1人歩きしても大丈夫そうだと感じたからだ。レストランを探しながら歩いていると、また例のGSの前を通りかかった。もう顔馴染みになった従業員にレストランの場所を訊いたがわからないと言われ、代わりに併設の売店で何か買えばいいよと提案してくれた。早く休みたいのでそうすることにした。夕食用にムートンカレーのパイ・フライドチキン・ジュースを買う。一緒にコーラを2本買い、親切にいろいろ教えてくれたGSの従業員に差し入れした。

 ホテルに戻って夕食を食べ、ようやく待望の入浴。熱い湯にのんびりと浸かって3日分の汚れを落とした。風呂から出た後は作戦日誌を書く。

 今日は朝から1株も狙いのゆーふぉを見つけることができなかったし、枯草と灌木ばかりでフィールドにもおもしろみがない。こんなエリアでタコ物を見つけている人はどうやって探し出したのだろうか。それに加えて立て続けのパンク。昨日までの好調ぶりからすると悪夢のような一日だ。でも、最後にタイヤ屋のオーナーの優しさに救われて、そんなものはどうでもよくなってしまった。俺が出会った町の人々もみんな優しくて良い人だったし。夕食を買ってホテルに戻る時、世話になったGSの従業員に「明日給油しにまた来るよ。」と言ったら、「OK.Good night,my friend.」と言ってくれた。南米じゃ誰とでもすぐ「amigo」になれるけど、アフリカではどうなんだろうと思ってた。でも、俺たちはもう「friend」なのか。嬉しいねぇ。やっぱり一人旅は最高だ。こういうのは観光名所をバスで回るだけのパッケージツアーでは味わえない。

 作戦日誌を書いた後は荷物整理。スーツケースにしまっておいたお気に入りの腰に下げる小物入れを見つけ、明日この町を去る前にもう1度あのタイヤ店に行ってオーナーにプレゼントすることにした。

 23時、就寝。



作戦終了地点  Hopetown
戦果  なし
本日の行軍距離  406km
総行軍距離  3242km





inserted by FC2 system